今年も新酒のご案内をさせて頂く季節になりました。

    ジェロボアムがセレクトする新酒を毎年ご購入頂いているお客様には、驚かれるご報告になると思いますが、2009年、この年の新酒から航空便で輸入されるワインの取り扱いをやめることを決めました。これは決して唐突に思いついたことではなく、昨年の今くらいから考えてきたことです。

    ≪航空輸送により生じる二酸化炭素の排出量はワイン1本あたり5キログラム以上であり、これは海上輸送で運んだ場合の5倍になる≫ ・・このことをあるワイン関連のニュースで読んだことがきっかけになりました。

    気がつかないうちに他に良くない影響がでるような行動をしていることは少なくありませんが、その記事を読むまで考えもしなかったことでした。(想像はできたかもしれませんが)

    解禁日時が指定されたときから、時差の関係で世界で真っ先に新酒を楽しむことができる・・という触れ込みで盛り上がった日本は最大輸出相手国になりました。ワインを生産している側からすれば毎年大きな期待をされていることと思います。でも、環境問題が最優先で論議される今、僕も仕事で扱っているお酒の分野にも意識を変える必要性のあるものがあれば早い段階で決断するべきだと考えたのです。いろいろと悩んだ時期もあり、同じ業界の友人に相談すると「新酒の扱いで保証されているような11月の売上を捨てるくらいの覚悟ができる酒屋は少ない」という返事もありました。それに、新酒を作ることで一年のほとんどの収入を得ている産地の人々は職を失うことはないだろうか・・など考え過ぎたりもしました。

    『解禁』なんだか楽しくなる言葉です。禁じられた日から、そこからの解放を待ち望みます。

    新酒の販売時期に関しては、ボージョレー、イタリアのノヴェッロ、オーストリーのホイリゲなどに規制がありますが、特にボージョレーは『解禁』が大きな効力をもってきました。(大手輸入業者の戦略だったかもしれませんが) でもここ数年、その力が弱まってきたのか、ボージョレーの輸入量は減ってきていて、そもそも航空輸送までして早く飲む必要があるのか?1本当たり千円近い空輸運賃の意義は?などと、新酒のあり方が考え直されているように思います。

    ジェロボアムでは、今年からの具体的な取り組みとして、従来の空輸品の取扱いを中止、船便で輸入される新酒のご紹介、国産の新酒の取り扱いを行います。各商品の発売時期が9月末から12月中旬までズレることで、11月の新酒イベントなどが盛り上がりに欠け淋しくなる?かもしれませんが、まずは試してみます。

    最後に加えておきたいことですが・・僕は、新酒の味わいは特別なものだと思っています。収穫された葡萄が酵母という微生物の力でワインになる。芽生えたばかりの新しい命には強い力が宿っていて、発酵途中、または終わったばかりの新酒にはそれを感じさせる味があります。ちょっと大袈裟ですがそういつも感じます。ボージョレーは、ヌーボーのもう一つの功罪で、軽く見られがちですが実は偉大な産地です。新酒について、ボージョレーの価値についても含め、きっちりと正しいと思うことを見極めて伝えていく酒屋でありたいと思います。

    空輸便の取扱い中止については、他の酒屋さん、業者さんにも考えてみてほしいと思います。少しずつでも声が上がり、それが生産者に伝えられ生産量・方法などが調整され、いつしか、船便で年末に間に合うように届けられる年末や新年会で祝うための美酒として扱われるようになる・・という未来を願っています。

    日本に“ヌーボー”が初輸入されたのは1976年らしいですが、“そういうものだ”と思いこんできた呪縛からそろそろ解き放たれてもいい頃です。                    神戸 ジェロボアム  店主 安藤博文